訪問看護師の仕事は、マニュアルでは通用しない事が魅力だ。病棟や外来では、看護師の仕事の中心は決められた業務である。受け持ち患者さんに検査処置・点滴投与・創傷処置を行うのは1から10まで全て医師などの指示に従って行う。そこで行われる看護ケアは、マニュアル化された流れ作業と言っても過言ではない。

しかし訪問看護師が患者さんの自宅を訪問してマニュアル化したケアだけを提供したら、相手はその訪問看護師に心を開かないかもしれない。それどころか担当者を別の人に交代してほしいと言ってくる人もいる。病院で命を預かる以上は、病院に入院中は全て病院のやり方に従わなければいけない。しかし訪問看護は患者さんのご自宅での生活にちょっと入れていただいて、その限られた時間で健康維持や治療に必要なケアを提供する。したがってマニュアル化したケアでは、日常生活の中で大きな違和感を与えることになるのだ。自宅に介護ヘルパーや訪問看護師が訪ねてきて決められたマニュアル通りの会話だけをしていたら、たぶんその人に心を開こうとはしないだろう。そしてその人に興味も持たず、言われたこともだんだん聞き流すようになり、適当に相槌を打って終わりだ。

しかしその訪問看護師は健康維持や治療に対してとても重要な事を話しているかもしれない。適当に相槌を打っているとそれを聞き落とし、取り返しのつかない事を引き起こすかもしれない。もしそうなった時に訪問看護師は「私はきちんと説明したけど相手がちゃんと話を聞かなかった」で済まされる事ではない。これは訪問看護師の技術や知識不足が招いた結果である。